アルザス記3
今回は、重い思いをして300mm付きカメラを持参したので、
人間が思いどおりに撮れる。
今回の旅のテーマの一つにはマリアの収集がある。
先程のマグダナのマリアを思い浮かべながら、
今度は生きたマリアを撮りまくる。
古い街と新しい人間の取り合わせの妙に酔う。
幾ら座っていても飽きない。
と、目の前に、可愛いミニトレインが止まった。
切符の買い方が判らないが、エイッとばかりに最後部に飛び乗る。
直ぐ小父さんが集金に来た。
35F、日本語の案内のイヤーホーンも付いている。
20mもある貨車が狭い古い街並みを、魔物のように見事に通り抜ける。
30ー40分位でコルマールの中心部の要所を廻ってしまう。
16、17世紀前後の気組みの家が、
レストランはだったり、酒屋だったり、
八百屋だったり、床屋だったり。
大体の見所を一回りしたのだが、
古い街並みがクネリクネリとしていて一向に覚えられない。
インフォーメーションで詳細地図を入手する。
TCを両替しようとしたら、銀行へ行けという。
2時までだという。
まだ1時になってない、 ゆっくり行くと銀行閉まってる。
何のことはない、2時から開店だった。
まだ一時間もある。
とりあえずの小銭に困った、 ビールも飲めない。
銀行の前にクレジットカードのキャッシュチェンジャーが有った。
天の恵みとばかりにカードを差し込む。
次の操作が判らない、何処を押してもカードも戻らない。
青くなって、片っ端からボタンを押す。
ウンともスンとも言わない。
何回かやっているうちにスルスルっとカードが出てきた。
後で、皆に話すと、「ICチップを埋め込んだカード」専用とのこと、
「無茶な事する」
と呆れ果てられた。
キャッシュが無い侘しさを一時間余り味合って、2時になる。
銀行で、TCを差し出すと、
「No」
「Why?」
ギクッとすると、ジッとTCを見つめて、
「おー、OK」
脅かすワイ。
早速、ビール、このあたりの出来立てのクロネンビール、堪らない美味さだ。
ニューヨークの自由の女神像の作者がコルマール出身なんて想像もつかなかった。
そのバルトルデイの博物館が街の中心に有り、彼の彫刻や絵画の作品、
身の回り品などが展示してある。
彼の生家を博物館にしたらしい。
当然、自由の女神関係の資料も多い。
大通りで彼の銅像も見掛けた。
そのバルトルデイ美術館の付近にも1500年代の古い民家が残っている。
その中の一つの床屋さんはNさんの行付け、これは後で聞いた話だ。
会社のOさん宅の真ん前は、サン.マルタン教会、
Sさん宅の前が、例のウンターリンデンだったり、
どうなってんのだろう。
いずれにしても、歩いて行ける距離に、見所が集中している。
その見所の幾つかは古い民家であり、
今なお現役として生活の場になっているのだ。
何時の間にか、5時を廻っている。
初日だし、NさんにTELを入れようとしたが、どうもうまくゆかない。
受話器を取る、カードを入れる、番号を廻す、
その番号は、局番のどこからプッシュするのか、
この組み合わせをやっていると埒が明かない。
後で分かったのだが、しかるべき表示が出るまで、
一寸時間を置くのがコツ?のようだ。
二日酔いでついフラット出てしまったNさん宅までようやく辿り着くと、
既に、Nさん心配顔で待ってる。
アルザス記5
夕飯はSさん宅で、手作りの純日本食をタップリご馳走になる。
N、O、S、さん共通してお酒が弱い。
夕食が済むと三人は活き活きと、三人マージャンをはじめる。
Sさんの奥様は美人の誉れが高い、そして日本酒党だ。
奥様とアルザス談義が尽きない。
こんな話もして下さった。
一頃コルマールで話題になった二軒の店が有る。
一軒はコルマール駅前の由緒有るホテル、
ある事件から評判を落として、経営状態も低迷している。
もう一軒は、これも由緒有るレストランだが、
こちらはその同じ事件からこちらは評判を上げて、
経営状態は頗る好調なのだそうだ。
その事件というのは、
皇太子と雅子さまがお忍びでコルマールでデートされた時、
前者のホテルにお泊まりになられたのだが、
このホテルはこれを宣伝材料に利用して、コルマール市民の顰蹙を買った。
一方、後者のレストランは、お二人がそこでお食事したのは公知なのに、
頑として口を閉ざす、今でも口を割らないそうだ。
これが一徹のアルザス気質に拍手喝采を受けているのだという。
日本酒をしこたま戴いた後で、奥様にコルマールをご案内戴く。
何しろ家の扉を開くと真ん前がウンターリンデンだし、
一歩外に出ると、そこは15、16世紀のままの街並みの真っ只中だ。
その美しい街並みを美しい奥様のご案内でゆったりと歩く。
翌日は、会社のコンペに入れて貰う。
20人程のコンペだが、全部日本人、
フランス人のサラリーマンにはゴルフは人気が無いようだ。
250Fのプレー費でキャデーは付かない。
Nさん達は週に一回はコースに出ているという。
これがストレス解消と適当な運動になっている。
コルマールの駐在員のうちの二人はアルザス人のお嬢さんと結婚している。
やがて日本に連れて帰るのだそうだ。
夕方、Nの買物に付いてゆく。
なんとそのスーパーもウンターリンデン広場に面している。
流石にフランスのスーパー、食品売り場の品物の豊富さには兜を脱ぐ。
中華食コーナー、メキシコ食コーナーに並んで日本食コーナーもある。
買物を済ませてNとコルマールを散策。
これで4度目の散策だが、
その都度、古い街並みが新鮮だ。
「あすこのパン屋さんはコルマールの老舗なんよ、
そこの息子が俺の所で働いておるんよ」
Nは関西人だ。
関西弁に、東京弁、沼津弁も混じっている。
「そいつは3カ国語を話すんよ」
「そこの二階はAが住んでるんやで」
「家賃は9万円くらいやな」
コルマールでも最も古い民家と言われている建物は酒屋になってる。
私はワインが全く判らないが、親父が口角に泡を飛ばしながら、
懸命にアルザスの銘酒を説明してくれる。
その中の「これは絶品」と教えてくれた
「シャトー.マーゴ」
を奮発。
その「シャトーマーゴ」を持って、O宅へ。
何かといっては、単身赴任組はご家庭を尋ねるのだ。
刺身、天婦羅、豆腐、魚の煮物...
明るくて楽しい奥さんはアルザスの民族画に凝っておられ、家具、
置物、食器、飾り物、等々何にでも描きまくってしまう、
それが仲々に様になっている。
日本に戻ったとき、これは売物になる、と私は太鼓判を押した。
アルザスを心底楽しんでいる奥さんもいるんだ。
電話が掛かって来た。
奥さんがしばらく話し、御主人に替わる。
S学園に入っている息子さんからの電話、
御主人が盛んに親父の威厳を示している。
昨夜のOさん宅も、今夜のSさん宅も、一人と二人、
子供さんは全寮制のS学園に入っているのだ。
聞く所によると、日本の私立大学よりも月謝が大変なのだそうだ。
その大変なところへ三人の子供さんを預けている人もいるのだと。
大変だ、大変だ。