アルザス記4
名にし負うバーデンバーデンはコルマールから車で一時間半で行ける。
私を案内しようと言う事で、Sさんご夫婦、N、Iの5人で出かける。
途中、ストラスブ-ルの寿司屋、早速、熱燗でトロを突つく。
この店に入ると直ぐの挨拶は
「親父! 今日はマグロ、イイのあるかい?」
から始まる。
たまたま、今日はあったけど、何時も有り付けるとは限らない。
何しろフランス人はマグロ、とりわけトロを余り食べないので、
自ずから日本人相手の仕入れとなる。
ストラスブール近辺に住む日本人の数はたかが知れている。
そんな日本人の為に常に新鮮なマグロの在庫を持つわけにはいかない。
住民の日本人の方も、
来れば必ず新鮮なマグロが有るとは限らないので、だんだんと足が遠のく。
そんな訳で店の経営も仲々大変なようだ。
窓から水門が見える。



ストラスブルグを散策。



 

 










バーデンバーデンは2時から御開帳になる。
バーデンバーデンはフランスとの国境近くのドイツ側に有る。
ヨーロッパ屈指の温泉場だ。
高級ホテルが立ち並び、ヨーロッパ中から湯治客が集まってくる。
リタイヤして年金暮らしの老人、
如何にも裕福そうに身を飾った人たちが街中溢れている。
そして、ここにはヨーロッパで良く知られているカジノがあるのだ。
威風堂々たる古城の風格のある建物、
高い天井に見事に煌くシャンデリアの下で正装した老若男女がルーレットを楽しむ。

一度経験した人なら忘れられないあのスリル、
コロコロコロ、コロッ、コロッ、コロリ、
緊張の静寂が破られ、溜息と知たり顔が交互する。
タキシードをキッチリ着こなした目つきの鋭い百戦錬磨の賭博師風情、
おっとりとして、我々の月収位の掛け札を無造作に放り投げてるのは貴族か、
或いは、中近東の王族か石油成金か、
さながら昔の映画の一場面をそのまま持ち込んだようだ。
真剣な面持ちで掛札を握り締めている日本のサラリーマンも居る。
そんな人たちに混じって中高年のご婦人たちがささやかなスリルを味合っている。
当たるとキャッキャ、
外れると世の中にこれ以上悲しい事はないとばかりに大袈裟に溜め息を漏らす。
とても楽しそうで微笑ましい。
いかにも余生を楽しんでいる様子だ。
少なくも、表面的にはなんの悲劇も感じない、微塵だにもだ。