アルザス記6
オーケニヒブール城から20キロ余り北へ、更に、
鬱蒼としたヴォージュ山中をグルグル登り切ると、
サント.オデイール修道院が剥き出しの岩盤の上にドッシリと正座している。



盲目の聖女オデイールの伝説が痛々しい。
人里から離れ、
天に手が届くような修道院での修行に耐えた女性たちの楽しみは何だったのだろう。
「尼僧物語」「尼僧の恋」「尼僧ヨハンナ」...
映画で見た修道女達が偲ばれてならない。







修道院から少し回り道した所にある湧き水で、
老若男女がポリ瓶に水を詰め込んでいる風景は、
日本の温泉などで見られるのと全く同じだ。
ただ、この泉の周囲は霊気が漂う。

今度はワイン街道をヴォージュ山脈沿いに南に走る。
ワイン街道、
なだらかな起伏の葡萄畑の中に点々とある珠玉のような村々を、

 











文字どおり珠珠繋ぎに繋いでいる。
その城壁に囲まれた村々の、時にはその中央を貫き、
あるいは村の外れをかすめて、走るのだ。







ハイゲンシュタイン、バー、ダンバー、シュルヴォレール、オルシュヴィーレ、
ベルグハイム、リボーヴィレ、リクヴィール、ツーカイム....
どの村も入れ口に村の名前を書いた白い看板が立てられている。
そして、
出口には斜めに赤い線の入った同じ大きさの看板が立っている。
とてもわかり易い。
村の出口から次の村の入れ口までは、只々葡萄畑が連なり、
その間には民家などは一軒も無い。



その村々のどれもが自分たちのワインを持っている。
日本の中央山脈が日本海側と太平洋側の気候の違いを作り出しているのと同じように、
ヴォージュ山脈が日照時間の長い独特なアルザスの気候を作り出し、
ヴォージュ山脈から流れ出す無数の川が、良質で潤沢な地下水となる。
肥沃な大地もあいまって、こんな立地条件が、古い時代からアルザスに、
良質なワインを醸造せしめている。

時々、気が向くと、村の中央の駐車場に車を置いて、村を散策する。
木組みの家と石畳の路地裏のレストランで地ワイン、
地ビールを味あいながら、のんびりと、
中世の雰囲気に浸るのだ。

帰り道、突然、真正面から向かって来た車が、急ブレーキを掛けて左右に揺れた。
何時の間にか左側を走っていたのだ。
慌てて、ハンドルを右に切って事無きを得た。
少し馴れてきたせいもあるが、車が少ないと錯覚を起こし易い。
前に車がいる時はまず安心なのだが。

今日で、アルザスとはしばらくお別れになる。
Nさん宅に荷物を半分置いて、四週間後にまた、戻ってくる。
夜、Nさんとっておきの大吟醸でしばしお別れの乾杯!