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ラスコー記3
もう4時、何処にもよる時間はない、一目散にロカマドォールに向かう。
口惜しいことに、急げば急ぐほど道を間違える。
街を通り過ぎる度に街の名と次に通るべき街の名を、地図で確認しするのだが、
悲しいことに、一度や二度見てもフランス語の街の名が覚えられないのだ。
少しでも近道をしようと、
メイン道路から外れた田舎道を走るから、ますますややこしい。
北に進んでいる筈が、何時の間にか南に進んでいたりする。
運転席と助手席の真ん中に磁石を置いて走っている。
これは後で気が付いたのだが、いつも針は右が北を指している。
おかしいと思ったら、やはり、おかしかった。
磁石の下に磁力の有る物が有ったらしい。
こんな事も有って、ロカマドォールに着いたのは、もう6時過ぎ、
予定の倍の時間掛かってしまった。
何処を観ても、凄い凄いの単細胞だが、谷を挟んで見るロカマドォールは凄い。
凄いの上が有ればそれが当てはまる。
青空にそそり立った断崖にへばり付く幾つもの教会、
礼拝堂、塔、銃眼の覗く砦の銃壁、中世の聖地の威容だ。
車を降りて長い石段を登る。
両側がレストランや土産物店でギッシリ詰まった狭い、人でごった返している賑やかな通りに出た。
流石に有名な観光地、南フランスのレボーやゴルドより人が多い。
日本人は見当たらない、
そう言えばブリーヴに着いてから日本人には全く会っていない。
例のミニトレインが来たので飛び乗る。
上に上がるのかと思ったら、何と駐車場まで下りてしまった。
そのまま乗っていたらまた元のところに戻った。
快適は快適だが、時間がないときに限ってこうだ。
今度はエレベーター、
「途中までか、頂上までか?」
と聞くので、「頂上まで」と言うと、下りると其処は駐車場、全くついていない。
中世のフレスコ画の有る礼拝堂も横目で見て、
その昔巡礼の群れでごった返した石段を急ぎ足で降りる。
遠路はるばる辿り着いた巡礼達が幾日も滞在して祈りを捧げた聖地、
こちとらは、たったの30分でおさらばだ。
チェックインの時間に到底間に合わない。
この間のアルルのようなところだとシャットアウトの可能性もある。
途中の街で、何回か電話ボックスを探す。
やっと見付けたら掛からない、カードが切れているらしい。
今度はカード屋探し、右往左往して時間ばかりが過ぎる。
通り掛かった女の子が地図を書いてくれて、やっと連絡が取れた。
やみくもに飛ばして、CADUINに着いたのは9時、
100Mも歩けば村外れの小さな村だから直ぐに判るだろうと思ったが判らない。
YHらしい看板も標識も見当たらない。
広場の隅のバーで尋ねる、気風の良さそうなおカミさんが周囲の客を集めて聞いてるようだ。
YHのフランス語が判らない、
店の客が全員、と言っても4、5人だが、で喧喧諤諤、暫くして一人の若者が、
「俺に付いて来い」
とばかりに歩き出した。
広場を横切って目の前の大きな教会の前に立ち、
「此所だ」
と言う。
と、二階の幾つかの窓からドドッと女の子が顔を出して窓越しにキャーキャー叫び声を出している。
間違い無い、若者に礼をいうと、ニュっと親指を突き出した。
お城をYHにしているところが有るとは聞いていたが、
まさか教会とは気が付かなかった。
そう言えば、私はまだ行ったことが無いが、日本ではお寺のYHが沢山有ると聞いている。
大きな鉄の扉の中の小さなドアを開けると、
大きな中庭、その一角の入れ口らしいところにいた女性に、
恐る恐る、
「先程電話した***です」
「ハァー」
怪訝な顔だ、
「兎に角、泊まりたいのね」
「ハイ」
チンプンカンプンだが話は纏まった。
だだっ広い吹き抜けに掛かった一間巾もある大きな木の階段を昇って三階の部屋に案内される。
高い天井、プンプンと芳ばしい木の香りのする真新しいベッド、
抜けるように白いシーツ、
「今日は、この部屋、貴方だけだから自由に使ってちょうだい」
外観はいかにも古めかしい教会だが、中の部屋は明るすぎるくらい明るい。
村の中心の広場に面し立派な教会、
縦100M、横60M位の四方を厚い石壁で巡らし、いかにも厳めしい威容だ。
一角に突き出た尖がり帽子の美しい二重の塔、あのTURRENEで見たのと同じ形、屋根の色も同じだ。
3階から内側を覗くと、外観からは箱型に見えたが、実際は「日」の字型の建物だ。
チンプンカンプンの訳が判った、此所のパンフレットを見ると、
此所の電話番号とブリーヴの電話番号がおんなじ、
連絡先はブリーブ、と書いてある。
さっき、あたふた電話したのはブリーブだったのだ。
笑い声を交えながら、
「OK,OK 判った 判った」
と言っていたのは、どうも、あのブリーブのおばさんだったらしい。
でも、当のCADUINNの人が判っていないのは、どういうこっちゃ。
それは兎も角、此所はすこぶる居心地が良い、あと2晩追加だ。
広場のバー、おカミさんの笑顔が良い、取りあえずビール、
「このへんのワインある?」
怪訝な顔をして首を傾ける、発音が悪いらしい、メモに
「VIN」
と書くと、
「オー、ヴァインね」
と言って、傍らの樽、日本の飲み屋の生ビールの樽の如き樽の栓を捻ってトクトクと注いでくれた。
まさに地ワイン、コクが有って、しかも素朴な味、名前は失念した。
さっき、窓から首を出していた女の子たちが3、4人でコーラを飲んでいる、
どうも中学生か、高校生らしい。
やがて先生らしい年頃の女性もやってきて仲間に加わった。
師弟の間柄にしては馴れ馴れしい。
翌朝、驚いた。
つづく
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