メコンに沿って(26)

メコンよさらば!



あと幾日ラオスでブラブラしようか迷っていて、ハタと気が付いた。
ラオス滞在ビザの有効期間は15日、今日は19日、5日にラオスに入っているから、
今日中にタイに入らないと厄介な事になる。

日本から持参したガイドブック、地図の類を亡くしてしまい、
手元にはA−4の1ページにタイ国全部が入ってしまうような地図しか持ってない。

ずっと、用意周到な相棒におんぶに抱っこで来たので、一人旅の感が狂ったようだ。
タイの国境の街の名はチョンメック、これだけをしっかりと頭に入れる。

ホテル前でトゥクトゥクを拾い、
「チョンメック」
走り出すと直ぐ、
「此処だ」
と下ろされたのは、この間の船着場だ。

運チャンが、
「向こうからフェリーに乗れ」
と指差す。

人の群れがごった返す広い市場のような船着場の一番端にフェリー乗り場が有った。
丁度大型のフェリーが岸を離れたところだ。
向こう岸に見えなくなったフェリーが一時間ほどして戻って来た。
大型といっても青天井で、小型車が3台3列で満員、いろんな人が乗り込む。

物売りの女子達が何回も何回も廻って来る。
エンジンが掛り、船が動きだし、艀が上がりかけると、彼女達は一斉に陸に飛び移る。
建設中の大きな橋が向こうに見える。

1000キップ出したら500キップ返してくれた。
随分安い乗船料だ。

対岸に着くと、国境らしきものが無い、どうも様子が判らない。
何回か、指差して、
「チョンメック?」
「チョンメック?」
と確認しながら500mも歩くと、車やトゥクトゥクの溜まり場に行き当たった。
ここにも国境らしきものが無い。
脳天からの太陽に聊か疲れて、どうしたものか思案していると男が、
「チョンメックへ行くのか? タクシー、200バーツ」
と近付いて来た。
どうも、国境の街、チョンメックは未だ先らしい。
いきなり、キップからバーツでピンと来ない。
頭の中で計算すると700円くらい、思わず、
「OK」
を出して、車まで案内されてから、
「仕舞った!」
と思ったがもう遅い。

昨日のトヨタハイエースのイメージが有ったのがいけなかった。
20年も経ってるであろうCARMYだ。
二人に男が後ろから押してエンジンを掛ける。
寸断無くガタガタと軋む音、道が良いのに救われた、簡易舗装では有るが立派な道路だ。
スピードメーターなど、表示機は何も付いていない。
全ての標示器の場所は穴が空いて針金が飛び出している。
しかも、直ぐそこと思っていたのが中々着かない。
いつタイヤが外れるか、扉が開くかの恐怖の一時間半、
あとから調べると50km位あった。
エンジンは流石日本製、たった一回のエンコだけでチェンメックに辿り着く。


自由に出入れ出来る国境

迂闊な事に、ここまで来てやっと呑み込めた、此処は未だラオスだ。
バクセーからメコンを渡った対岸がチョンメックと早とちりしたしたのが混乱の始まりだった。
バクセーの直ぐ北側まで、
ラオスとタイの国境を流れて来たメコンはラオスの内陸に入り込んでいる。



広い駐車場を中心に、素朴な茶店、土産店が囲んでいる。
その後ろには小山が迫り、その小山に向かって一本の道が伸びている。
国境はその道を登った方向に有るらしい。
まだまだ陽は高い、どうやら、今日中にはタイに入れそうだ。
一軒の茶店の娘さんの愛敬有る笑顔に誘われて腰を下ろす。
生暖かいビールを飲みながら、主人らしい男ともう一人、気の良さそうな男とカタコトで話す。
殆ど通じない。

私が被っている葦で編んだ帽子をもの珍しそうに弄りまくる。
ゴールデントライアングルで買ったものだが、この辺りのものと格好が違う。
近くの店で、竹で編んだ小さなスチック、もち米入れを買って、
バッグにぶら提げる、 5000キップ。
料金払って、子供二人に小銭を上げて、歩き出そうとしたら、気の良さそうな男の方が、
「荷物を運んで上げる」
「幾ら?」
「5000」
男の後ろの娘さんが、三本指を立てる。
残っただけのキップを出して、
「これで良いか?」
4000キップくらいは有りそうだ。
「OK」
男は、傍らから荷車を引っ張り出す。
木の車輪の附いた奴、流石に最近の日本では博物館でしか見当たらない代物だ。

 

私が歩き出すと、
「違う、こっちだ、こっちだ」
と反対の方向へ行き出した。
彼の世話にならなかったら、とんだ方向へ行ってしまうところだった。
坂道を500mも行くと、山陰になっていて見えなかった国境の柵が見えてきた。
そのまま行こうとすると、男が左側の白い建物を指差して、頻りに何か言う。
出国手続を教えてくれたのだ、これは有り難かった。
無事に手続を終えると、柵、二本の丸太が立ってるだけの国境、
監視人が居たような居なかったような、何のチェックも無い。
柵を越えたところまで入って、男は荷物を下ろす。
残ったキップ全部とに1$を添えて上げる。



ながながと「メコンに沿って」をお付き合い頂き有難うございました。