メコンに沿って(10)

 アルメジェロを食う

今回の旅の最大の目的は、
コーン滝を真近に観る、そして、
此処フェサイからルアンブラバンまでのメコンの船旅、だ。

ルアンブラバンまでは高速船で7時間、スロウボートでは2日の行程。
船を検分に出掛ける。
街の東外れが高速船の発着所、西外れがスロウボートの発着所、
発着所と言っても草生した土手に泥んこの階段が出来ているだけだ。
高速船は、言ってみれば、競艇用のカッターに毛が生えたようなもの、
スロウボートの方は巾が3メートル、長さが20メートル位の木枠が剥き出しの木造船。



 

床は隙間だらけの板敷き、屋形船の様な屋根があるが吹きっさらし、
当然、どちらもトイレもない。
もう少し、観光船らしきを期待していた私は怖じ気がつく。
胃腸虚弱の私には、無理なようだ。
相棒は大分迷っていたが、宿の主人の、
「以前、高速船が岩に衝突して死人が出た事がある」
と聞いてびびったようだ、折からの雨もあって、彼も断念。
フェサイの街が気に入った私が、
「俺は2、3日、此処に居るよ、本調子じゃないし..」
相棒は、
「こんな所に居てもしょうがない、俺は一足先に行くよ」
翌朝、彼はノッシノッシと出て行った。


アルマジェロ

部屋で寝っ転がっていると、最高の気分、何もしたくなくなる。
メコンの川風が心地よい。
誰かが置いて行ったのだろう、
何冊かの本の中の村上龍の「コインロッカーベービー」を一気に読んでしまう。
陰惨な本だ。
通りに出ると、少数民族衣裳の女達と行き交う。

 

ラオスの人達はゆったりと歩く。
白人のバックパッカーが多い、三分の一は二人連れ。
沈香屋のUさんも、通りをウロウロしている、
なにしろ一本しかない表通り、何回も行き合う。
いかにも穏健な顔付きのUさん、口ひげが良く似合う。
昨日の中国店に入ると、Uさんを中心に店の人達が昼食の最中、
美人の奥さんが仲間に入れと誘う。

ビールを4本程下げてテーブルに加わる。 
上海留学中のUさんの姪御さんも一緒だ。
料理の中に、黒い肉の煮付け、何と、アルメジェロなのだそうだ。
私が珍しがると、冷蔵庫から出してきた。

 

ゲテモノ食いの相棒が目を吊り上げて口惜しがるだろう、そんなに美味しいものではない。

Uさんは散歩の途中の川岸で転んで腰を打ったとか、手足のバンソウコウが痛々しい。
彼はポルトガル語が専門とか。
「沈香、欲しそうな顔をすると、値が釣り上がってしまうのです。
だから、欲しそうな顔をしないで、辛抱強く、向こうから持って来るのを待っているのです」
普通のサラリーマンには出来ない、名刺を見ると、東京の赤坂に事務所を構えている。
羨ましい商売が有ったものだ。
Uさんは良いけど、遊び盛りの姪御さんにとっては、ここでの一ヶ月は苦痛かも判らない。


グーチャッチャ グーチャチャ

始めは何か電気系統の音と思ったのが、ヤモリの鳴き声だ。
部屋の壁に2、3匹引っ付いている。
最初は気持ち悪かったが、直ぐに馴れた。
馴れれば可愛いものだ。

 

しかし、このファンを廻しての快適さは何だろう、
日本の7月初旬、ファンを廻した部屋には居たたまれないだろう。
温度計を見ると27度、蒸し暑さが無い、理解出来ない涼感だ。

ブラブラしていたら、調子が戻ったようだ。
近くの旅行会社へ様子を聞きに行く。
旅行社と言っても建物も中身もまるで物置のような店構え、
明日の便が空いてると言うので、その場で購入、 45$?。

通りの店の何軒かにぶら下っている布地が目を惹かれる。 
ラオス名産の織物だそうだ。
以前、中国やタイの少数民族の織物を漁った事があるが、
ここの織物もキメが細かくて中々魅力的だ。
冷やかしのつもりだったが
メールフレンドの桐子さんが喜ぶかもしれないと急に欲しくなって10枚ほど仕入れる。
50$が高いのか安いのか判らない。



普通の衣料店だから、ぼられている事は無いとは思うが。
荷物を整理して、不要なものを郵便局から小包で送る。
ラオスでは$でもバーツでも、当然キップでも通用するのは良いが、
計算に疎い私には、支払いのたびに頭を悩ます。

つづく