メコンに沿って(11)
鶏が啄ばむフェサイ空港であわや拘束!?
トゥクトゥクを雇って空港へ。
緩やかに傾斜している野原の真ん中に有るフェサイ空港は滑走路よりも緑の方が多い。
昔、何かの映画で観た南海の孤島の飛行場のように、
管制塔の付いた小さなコンクリートの建屋が一つ有るだけだ。
その建物を遠巻きにして藁葺きの茶店のようなものが幾つか並んでいる。
あたりには、鶏が餌を啄ばみ、時々、犬と追っかけごっこをしている。
サンダル履きの乗客も交じる。
白人は一人も居ない。
彼らはあの船でルアンババンへ向かうのだろう。
汚い机が二つ並び、机の上は書類だかゴミだか判らない。
真っ先にチェックインを済ませる。
暫くすると、凄まじい音を立てて双発プロペラ機が草叢の中から現れた、
Y−12Uと書いてある。
15、6人の客が降り、荷物も降ろされる。
と、操縦席から降り立った操縦士が草叢に向かって放尿しだした。
次ぎは我々乗客が乗り込む番だ。
一番後ろに並んで乗り込もうとしたら、恐ろしい事が起こった。
係員が最後の私の前に割って入って、私を押し止める。
何かの理由で拘束でもされるのかと、映画の主人公のように辺りを見廻す。
ピストルの様なものを持った人間は見当たらない。
係員の一人が駆けてきた。
その男はニヤニヤしながら、英語で、
「満員だ、あんたは次ぎの便だ」
17人乗りの18番目に並んだのだ。
ルアンパバンまで行って返って来る90分待ちだそうだ。
飛行機が飛び立つと静寂が訪れ、やがて、人っ子一人いなくなる。
のそのそと藁葺きの茶店の一つに入り、木の椅子に坐る。
「冷たいビール」
と注文すると、氷を入れようとする。
氷は恐い、仕方無しに生暖かいビールだ。
第二夫人? 第三夫人?
少し高台に有る飛行場からはメコンが見渡せる。
メコンを挟んでタイ側はなだらかな平野、ラオス側は険しい山並みが連なる。
おばさんが気の毒そうに話し掛けて来るが、言ってる事が判らない。
近くで軍鶏が喧嘩を始めた。
鶏も犬も寄って来る。
極まりない長閑かさだ。
子供を抱いた愛想の良い若い奥さんがやってきて隣に坐る。
まだあどけなさが残る。
手振り身振りで話し掛けて来る、とても人懐こくて天真爛漫。
写真を撮って上げると、何時の間にか、ゾロゾロと子供が出てきた、
ヨチヨチ歩きから幼稚園位まで4人が彼女の子供だそうだ、奥さんは30歳。
「写真を送って上げるから住所を」
と言うと、字が書けないらしい。
奥さんが振り向いて声を掛けると、小学生位の男の子が飛んで来て、住所を書く。
彼も子供だと言う。
「旦那を送りに来た」
と言って、両手を放り出すようなポーズを取る。
生暖かいビールを二本も飲んだ頃、
係員が呼びに来て、私を一番前に並べさせた。
「今度は、あんたが一番先だ」
と言ってるようだ。
轟音を伴ってY−12Uが姿を現し、同じ風景が繰り返される。
操縦士も5、6歩草叢に近づくと、やおら、放尿。
飛行機の入口近くに、さっきの奥さん子供たちが並ぶ。
さっきまでの明るい顔に、一瞬、暗い影が過ぎる。
どうも、第二夫人か第三夫人らしい。
プロペラ機は走り出したかと思うといきなり飛び上がった。
さっきの奥さんの旦那が斜め前の席、脂ぎって、とても精力的だ。
赤い顔をして周りの人に声を掛ける。
私にも日本語で話し掛けてきたが、無視した。
雄大なメコンに沿って飛ぶ。
音は煩いが揺れは殆ど無い。
やがて雲の上に出る。
つづく