ラスコー記1

620
朝、電話の音で目が覚めた。
「あんた、起きられなかったの? ウイッ. ブチュブチュ...ウイッ. グチュグチュ....」
時計を見ると5時50分、予約した列車の発車時間は5時51分。
親父の奴、モーニングコールを忘れたな、
グチグチ言っても始まらない、人間、時には諦めが肝心だ。
「俺には日本語版のクック時間表が有るのだ」
と昨夜やっと整理した荷物の奥まで掻き回したが見当たらない。
おまけに、地図も無い。
「こりゃー参ったぞ」
兎に角、駅まで走る。

フランスの一人旅は初めての経験なので、
汽車と着いた場所での宿所は必ず予約を入れる事にしてしている。
改めて予約した汽車の切符をしげしげ眺めると、
アルルから目的地のブリーブまでモンペリエ,
トゥルーズで乗り換える事になっている。

モンペリエ行きとおぼしき列車に乗り込む、早朝6時、客も殆ど居ない。
たった一人の客、中年の男に、
「この列車はモンペリエへ行くか?」
と尋ねる。
「ウイッ 」
とひとこと言って、新聞から目を離さない。
「この男、英語判ってるのかなぁ?」
不安が過ぎる、そうこうしているうちに列車は走り出した。
「エエイッ、ママヨ」
とは言うものの、時間表も案内書もない旅ほど、心細いものは無い。
男の「ウイッ」だけが頼りの情けない旅になった。

日本なら、東海道線、東北線とか、新幹線にしろ、非常にシンプルだが、
フランスの鉄道は、やたら、ややこしい。
特にアルルの付近は同じ線路が、列車によって、上りだったり下りだったり...
西へ向っている筈が、どうも、反対へ向っている。
ままよと覚悟を決める。
(後日判ったのだがこの辺りの路線はS字形になってる部分がある)
その内に西へ向い出したようだ。

予約切符に書いてある時間からして、もうそろそろと思っていると、
やや大きな都会に入ってきた、が違う駅だった。

モンペリエに着いたのは、
予約切符に示された所要時間より2、30分遅れている。
急行とかの関係なのだろう、 結構大きな都会だ。
中世からの歴史の有る医学の街とか、一目みたいけど、そんなことも言ってられない。
直ぐにインフォーメーションに飛び込み、
時間表を漁ると、次のトゥルーズ行きの時間が迫っている。
窓口へ行って、
「この汽車に乗れなかったけれど...」
と言うと、何か切符を発行してくれた。
「あと、5分後に発車だ」
と急かされる。
慌てて飛び乗る、今度は時間表があるので、停車の度に時間と駅名をチェック。
「カルソンヌは見て死ね」と言われるカルソンヌも素通りだ。

トゥルーズでは少し時間があったのでガロンヌ川でも一寸見てやろうと歩き出したが、
何だか道が曲がりくねっていてややこしい。
諦めて引き返し、駅前のカフェでビール、結構近代的な都市だ、背広姿が目に付く。

トゥルーズ



それにしても、旅というのは何とか成るものだ。
変な自信を持つ。
今日のような時に、もし連れが居たら5倍位の神経を使う事になるだろう。
こんなところが一人旅の良いところだ。

予約時間より3時間遅れでブリーブに着く。
フランス北西部、ペリゴール地方と呼ばれている先史時代の遺跡の宝庫、ピレネーもそう遠くはない。



初めての土地は成るべく午前中に到着するようにしている、少し遅れたがまだ日は高い。
駅前のホテルにブリーブ最後の日の予約を済ませ、直ぐ、隣のUROPCAR,
予約してある明日からのレンタカーを今日からに変更の交渉、OKだ。

ブリーブのYH、実に感じの良いおばちゃんが出迎えてくれた。
部屋まで案内し、電気、トイレ、部屋の鍵、
そして、夜11時以降は閉められる表玄関の鍵の開閉の仕方まで手を取るように教えてくれた。
今夜の客は、もう一人のアメリカの老婦人と二人だけとか、
あんまりも居心地が良いので、
「もう1日、宿泊追加出来ない?」
「NO、残念、明日は満員ヨー」
と目と手と口をいっぱいに広げて首を傾ける。
明日は土曜日だ。
「少し行ったCADOUINと言うところに、今度出来たばかりのYHがあるわよ、
そこならレセジーやラスコーも近いから洞窟巡りに絶好だし、とっても良いところよ、そこなら紹介して上げるわ」
と住所、電話番号、簡単な地図を書いてくれた。

さて、と5日間の計画を練る。
この辺のドライブコースの本も昨日無くしてしまっている。
もう一度練り直しだ。
さっき駅で整えた地図MICHELIN、
畳二畳程ある3枚の地図を繋ぎあわせた中央あたりがブリーブ。
今回の旅の芯、ラスコーはブリーブから北西へ2、30KM、 その先がレセジ、
いよいよ夢にまで見た先史時代の洞窟画にお目に掛かれる。
おばさんに紹介されたCADOUINは直ぐその先、
ここから5、60KM、車ならつい目と鼻の先だ。

洞窟巡りはCADOUINを拠点にするのが好都合のようだ。
丸5日間あるから、2日間は周辺を巡り、3日間は洞窟巡りと、決める。

621
おばちゃんと写真に収まって、出発。



明後日の夕方までにCADOUINに入ればよい。
今日明日は行き当たりばったりだ。
おばちゃんが
「今日はどうするの?」
と心配顔で送ってくれる。

今日は、ブリーブから南西へ、
ロカマドゥール、FIGEAC、時間があれば、ロートレックの故郷アルビまで足を延ばそうかな、
など考えながら街を出ようとするが、なかなか街から抜けられない。
こんな時丸い街は便利だ、決まるまでぐるぐる廻っていれば良い。
一回りするのに10分と掛から無い小さな街だ。
やっとそれらしき方向を見付けて街を出る。
見当つけた道よりも一本東にづれた道らしいが、
田舎道で快適そのもの、真っ直ぐな道だが向こうの見通しは悪い。
丘を上がったり下がったりして尾根を越えるからだ。
いい気持ちで飛ばしていたら、どこの国でも見られる風景、
見通しの良い一本道と思っていた道が若干カーブしている。



10分も走ると、凄い街? 村と言った方が適切かも判らない。
まさに息を飲むような村が忽然と現れた。
緑に包まれた一つの丘に、
青みがかったいグレーの尖った屋根が丘の麓から頂上までバランス良く張り付き、
頂上には城壁と塔が見える。







思わず車を停めて、その頂上に向って歩き出す。
ある時は螺旋形の石畳、またある時は苔むした石段、
小道に沿って立ち並ぶ民家、一軒一軒の石壁が素晴らしい。







白、茶、グレー、褐色、等の微妙な階調の石壁、
古い馬車の車輪をはめ込んだ石壁も有る、



所々に、目を射るような鮮やかな赤、紫、白、
黄色の小花がアクセントとなり見事に調和している。
丸い花模様の窓枠、彫刻と呼んだ方が適切な取っ手、
何気なく置いて有る花瓶や石像、



街灯と言うよりランプ、この辺の人々にとっては当たり前の習慣なのだろうが、
趣向を凝らした石と花の造作、その美的感覚の高さに驚かされる。

全く予想外の村だ、フィルムが瞬く間に減ってゆく。
今日はもうこれだけで満足。
教会の扉を押してみた。
誰も居ない、素晴らしいステンドグラスが7枚ずつ両側の窓で輝いている。



こんな良い目に会ってよいのだろうか、神に申し訳が無いような気がする。
村の遠望に息をのみ、小道に立ち止まっては息をのみ、
ステンドグラスに息をのみ、振り返っては振り返っては息をのむ。
2冊のガイドブックには記されていない村、TURRENEという村、琴線をくすぐる村だ。
通りに面した小奇麗なレストラン、一寸立ち寄りたかったが先を急ぐ。


VAYRACという街を通りかかると、小さな露店市の最中、
バナナとチーズを買う、何人かの行列が出来ている。
面白そうなので後に付く、車の中で開くとプリンだった。
いかにも手作りの素朴な味、5Fでお釣がきた。
こんな事をしていると一日が瞬く間に過ぎてしまう。

両側に白、赤、紫、黄色の花が咲き乱れる道を快調に走る。
きつい登り道を上り詰めた台地、パディラック鍾乳洞があった。
着いたのが12時5分前、12時から2時までお昼休み、またうっかりしてしまった。
日記を書いたり絵葉書書いたりする時間が出来た。

直径50M、深さが100Mも有りそうな大きな穴の中にへ、エレベーターを三回乗り継いで降りる。







規模が大きってものではない、
まず、秋吉台の鍾乳柱を1トンとすると、此所の柱は1万トンは有るだろう。
直径が10Mくらいの柱も有る。
ラスコーの洞窟画が1万5千年から2万年というが、物の数ではない。
たらりたらりと、何十万年、何億年も掛けて出来た柱なのだ。
時間の単位が違う。

更に歩いて下りてから、
一寸広まったところに舟付き場が五つあり、11人づつが乗り込む。
岩に頭が触れそうになると、隣の女の子がキャーキャー騒ぐ、
箸が転げても笑うって言うのは何処の国でも同じ、舟が揺れる度に笑い、
船頭の仕草が面白いといってはまた笑い転げる。
大きなズータイして全く屈託ない、太腿は私の2倍は有る。
舟で10分程遊覧、
まだその先10KMは舟で行けるというのだから気が遠くなる。




時間を使い過ぎた、有名な巡礼地、ロカマドォールは帰りに寄るとして、
アルビ、コルドまでは無理のようだ。
美しい街として知られているFIGEACに直行する。



街の中央に50M程の巾の川が流れる美しいFIGEACの街をぐるぐると旋回する。







仲々格好のホテルが見つからない。
やっと見つけたホテルのドアを押すと、フランス人形のような女の子が笑顔で出てきた。
「今夜、シングル部屋有りますか?」
電子手帳のフランス語を示す。
「すみません、今日は全部塞がっています、別のホテルを紹介しましょう、
この道を真っ直ぐ行った右側です。」
ホテルの名前をメモし、表まで出て指差してくれた。

そのホテルは直ぐ見つかった、
嫌に閑散とした古めかしい、旅篭屋と言った方が似合いだ。
70歳がらみのおばあちゃんが守役のよう、何か頻りに話すが全く意味が判らない。
「兎に角、部屋を見なさい」
と手招きして先に立つ、大きなタブ付きの風呂も有るし、まあまあだ。
この街の名物の橋の袂に有り、橋の名がホテルになっている。
橋に対し直角にある古い街道に面している、昔からの交通の要所だったことが偲ばれる。







一階には、バーも、細々とした商品が置いて有るお売店もある。
おばあちゃんが一人で切り盛りしているらしい。
猫が一匹うずくまっている、
「この猫は20歳になるのよ」
「私の家には猫が三匹いるんですよ」
こんな会話を交わす、お互いに何故話が通じるのか不思議だ。

夜、バーへ行くと、土地の男らしい3、4人がVATICUSを飲んでいる。
サントリーの「ダルマ」の形に似た黒い瓶に
「VATICUS」
と大きな文字のラベルが貼って有る。
アルルのカフェでもそうだったが、
どのテーブルにも、申し合わせたように、このVATICUSが立っている。
必ず水と合わせて飲む。
アルコール分が45%、水を入れるとミルク色に濁る。
名前は忘れたが、何か薬草みたいのが原料らしく、薬が代わりに飲んでいるのだとか....
口当たりが良く、何んとも言えない芳香、チビリチビリやっているときりがない。


622
寝覚めが悪い、昨夜のPASTISのせいか、
或いは、真夜中、隣の部屋からうめき声と共に、
「I'm coming ウーウーウー...」
ときた、口惜しいから、放屁してやった、そんなせいかも。
安宿の悲哀...

アルビは諦めた。
FIGEACから西へ二つの美しい渓谷、ロット渓谷とセレ渓谷がY字型に横たわり、
やがて一つになってCAHORSに流れ込む。
この二つの壮大な石灰石の断崖の峡谷に佇む中世の村や城、



教会、荒廃した修道院、鐘楼、









煉瓦造りの古い民家、そんな風景の一つ一つを眺めながら、
時には車を止めて写真に収めてのドライブはドライブ冥利と言うものだ。





途中、谷から尾根へ出て、尾根伝いに山道を走る、もう車どころか人影も無い。
先史時代のマンモス、パイソン、馬、人間などの洞窟画が見られるというベルヴュー洞窟、
夢に見た洞窟画、胸が踊る。
やっと辿り着くと、無人だ。
入れ口は鉄格子に鍵、鉄格子をこじ開けて入った跡があったので、電池を持ち出し、
「よし、探検だ」
とばかりに、鉄格子を潜り抜ける。
10Mも行くとまた鉄格子、今度はビクともしない。
「まあ、ラスコーが有るのだから..」
とは思うものの諦めて、がっくりと谷まで下りる。

谷を下りきった真向かいのレストランで昼食。
トリュフのオムレツ、フォアグラ、を頼んだつもりだが、
持ってきたのはクルミの乗った周囲がパンの様なもので取り巻いてる奴、
給仕が何か説明してくれたが全然判らない。
惨めに打ちしがれた私の顔を見るに見兼ねたのだろう、
隣に居た夫婦連れの男の方が、
「オムレツは後から来るから心配しないで」
と英語で教えてくれた。

余りに美味しくて、胃が人並みの三分の一も無いことを忘れてしまう。
何時もなら半分も食べられない量なのに全部平らげてしまう。
後が大変だ。
世界の珍味と言われる二つまでが、この辺りに産出されるトリュフとフォアグラ、
土地柄のせいなのか、歴史的な背景でもあるのだろうか?

隣の夫婦は大きな肉の塊をペロッと食べてしまった。
ワインの大瓶も底をついている。
天井に日本の唐傘が逆になってぶら下がっている、電灯の傘にしていのだ。

オムレツを食べながら案内書を見ていて、とんだ勘違いに気が付いた。
洞窟画を公開しているのは、ペク.メルル洞窟の方だった、
一寸引き返さねばならないが、直ぐ近くだ。


有史以前の絵を生で見る事の出来る感動をどう伝えたら良いだろうか。
マンモスと馬が絡み合った鮮鋭な黒線画、今にも躍り掛かって来るようだ。



黒い斑点で埋められた馬が二匹、尻が重なって左右を向いている、所々に紅い斑点も、
その背後に人間の手が浮き上がる。



壁面に置いた手の上から草の茎や空洞の有る動物の骨の霧吹きのようなもので顔料を吹き付けているのだ。









もう一つ奇跡的に残っているのが、人間の足跡、



2万5千年前、人間が確かに此所に手を置いた、歩いた、その生々しい記録なのだ。

この辺りの気候は変わり易い。
いきなり大粒の雨が落ちてきたかと思うと、からりと晴れあがったり、
これが一日に何回か繰り返される。


もう4時、何処にもよる時間はない、一目散にロカマドォールに向かう。
口惜しいことに、急げば急ぐほど道を間違える。
街を通り過ぎる度に街の名と次に通るべき街の名を、地図で確認しするのだが、
悲しいことに、一度や二度見てもフランス語の街の名が覚えられないのだ。
少しでも近道をしようと、
メイン道路から外れた田舎道を走るから、ますますややこしい。
北に進んでいる筈が、何時の間にか南に進んでいたりする。
運転席と助手席の真ん中に磁石を置いて走っている。
これは後で気が付いたのだが、いつも針は右が北を指している。
おかしいと思ったら、やはり、おかしかった。
磁石の下に磁力の有る物が有ったらしい。
こんな事も有って、ロカマドォールに着いたのは、もう6時過ぎ、
予定の倍の時間掛かってしまった。

何処を観ても、凄い凄いの単細胞だが、谷を挟んで見るロカマドォールは凄い。
凄いの上が有ればそれが当てはまる。
青空にそそり立った断崖にへばり付く幾つもの教会、
礼拝堂、塔、銃眼の覗く砦の銃壁、中世の聖地の威容だ。









車を降りて長い石段を登る。
両側がレストランや土産物店でギッシリ詰まった狭い、人でごった返している賑やかな通りに出た。
流石に有名な観光地、南フランスのレボーやゴルドより人が多い。
日本人は見当たらない、
そう言えばブリーヴに着いてから日本人には全く会っていない。

例のミニトレインが来たので飛び乗る。
上に上がるのかと思ったら、何と駐車場まで下りてしまった。
そのまま乗っていたらまた元のところに戻った。
快適は快適だが、時間がないときに限ってこうだ。
今度はエレベーター、
「途中までか、頂上までか?」
と聞くので、「頂上まで」と言うと、下りると其処は駐車場、全くついていない。
中世のフレスコ画の有る礼拝堂も横目で見て、
その昔巡礼の群れでごった返した石段を急ぎ足で降りる。
遠路はるばる辿り着いた巡礼達が幾日も滞在して祈りを捧げた聖地、
こちとらは、たったの30分でおさらばだ。


チェックインの時間に到底間に合わない。
この間のアルルのようなところだとシャットアウトの可能性もある。
途中の街で、何回か電話ボックスを探す。
やっと見付けたら掛からない、カードが切れているらしい。
今度はカード屋探し、右往左往して時間ばかりが過ぎる。
通り掛かった女の子が地図を書いてくれて、やっと連絡が取れた。

やみくもに飛ばして、CADUINに着いたのは9時、
100Mも歩けば村外れの小さな村だから直ぐに判るだろうと思ったが判らない。
YHらしい看板も標識も見当たらない。
広場の隅のバーで尋ねる、気風の良さそうなおカミさんが周囲の客を集めて聞いてるようだ。
YHのフランス語が判らない、
店の客が全員、と言っても4、5人だが、で喧喧諤諤、暫くして一人の若者が、
「俺に付いて来い」
とばかりに歩き出した。
広場を横切って目の前の大きな教会の前に立ち、
「此所だ」
と言う。
と、二階の幾つかの窓からドドッと女の子が顔を出して窓越しにキャーキャー叫び声を出している。







間違い無い、若者に礼をいうと、ニュっと親指を突き出した。
お城をYHにしているところが有るとは聞いていたが、
まさか教会とは気が付かなかった。
そう言えば、私はまだ行ったことが無いが、日本ではお寺のYHが沢山有ると聞いている。



大きな鉄の扉の中の小さなドアを開けると、
大きな中庭、その一角の入れ口らしいところにいた女性に、
恐る恐る、
「先程電話した***です」
「ハァー」
怪訝な顔だ、
「兎に角、泊まりたいのね」
「ハイ」
チンプンカンプンだが話は纏まった。

だだっ広い吹き抜けに掛かった一間巾もある大きな木の階段を昇って三階の部屋に案内される。
高い天井、プンプンと芳ばしい木の香りのする真新しいベッド、
抜けるように白いシーツ、
「今日は、この部屋、貴方だけだから自由に使ってちょうだい」
外観はいかにも古めかしい教会だが、中の部屋は明るすぎるくらい明るい。
村の中心の広場に面し立派な教会、
縦100M、横60M位の四方を厚い石壁で巡らし、いかにも厳めしい威容だ。
一角に突き出た尖がり帽子の美しい二重の塔、あのTURRENEで見たのと同じ形、屋根の色も同じだ。 
3階から内側を覗くと、外観からは箱型に見えたが、実際は「日」の字型の建物だ。

チンプンカンプンの訳が判った、此所のパンフレットを見ると、
此所の電話番号とブリーヴの電話番号がおんなじ、
連絡先はブリーブ、と書いてある。
さっき、あたふた電話したのはブリーブだったのだ。
笑い声を交えながら、
「OK,OK 判った 判った」
と言っていたのは、どうも、あのブリーブのおばさんだったらしい。
でも、当のCADUINNの人が判っていないのは、どういうこっちゃ。
それは兎も角、此所はすこぶる居心地が良い、あと2晩追加だ。

広場のバー、おカミさんの笑顔が良い、取りあえずビール、
「このへんのワインある?」
怪訝な顔をして首を傾ける、発音が悪いらしい、メモに
「VIN」
と書くと、
「オー、ヴァインね」
と言って、傍らの樽、日本の飲み屋の生ビールの樽の如き樽の栓を捻ってトクトクと注いでくれた。
まさに地ワイン、コクが有って、しかも素朴な味、名前は失念した。

さっき、窓から首を出していた女の子たちが3、4人でコーラを飲んでいる、
どうも中学生か、高校生らしい。
やがて先生らしい年頃の女性もやってきて仲間に加わった。
師弟の間柄にしては馴れ馴れしい。

翌朝、驚いた。

 

つづく

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