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ラスコー記2

街の中央に50M程の巾の川が流れる美しいFIGEACの街をぐるぐると旋回する。







仲々格好のホテルが見つからない。
やっと見つけたホテルのドアを押すと、フランス人形のような女の子が笑顔で出てきた。
「今夜、シングル部屋有りますか?」
電子手帳のフランス語を示す。
「すみません、今日は全部塞がっています、別のホテルを紹介しましょう、
この道を真っ直ぐ行った右側です。」
ホテルの名前をメモし、表まで出て指差してくれた。

そのホテルは直ぐ見つかった、
嫌に閑散とした古めかしい、旅篭屋と言った方が似合いだ。
70歳がらみのおばあちゃんが守役のよう、何か頻りに話すが全く意味が判らない。
「兎に角、部屋を見なさい」
と手招きして先に立つ、大きなタブ付きの風呂も有るし、まあまあだ。
この街の名物の橋の袂に有り、橋の名がホテルになっている。
橋に対し直角にある古い街道に面している、昔からの交通の要所だったことが偲ばれる。







一階には、バーも、細々とした商品が置いて有るお売店もある。
おばあちゃんが一人で切り盛りしているらしい。
猫が一匹うずくまっている、
「この猫は20歳になるのよ」
「私の家には猫が三匹いるんですよ」
こんな会話を交わす、お互いに何故話が通じるのか不思議だ。

夜、バーへ行くと、土地の男らしい3、4人がVATICUSを飲んでいる。
サントリーの「ダルマ」の形に似た黒い瓶に
「VATICUS」
と大きな文字のラベルが貼って有る。
アルルのカフェでもそうだったが、
どのテーブルにも、申し合わせたように、このVATICUSが立っている。
必ず水と合わせて飲む。
アルコール分が45%、水を入れるとミルク色に濁る。
名前は忘れたが、何か薬草みたいのが原料らしく、薬が代わりに飲んでいるのだとか....
口当たりが良く、何んとも言えない芳香、チビリチビリやっているときりがない。


622
寝覚めが悪い、昨夜のPASTISのせいか、
或いは、真夜中、隣の部屋からうめき声と共に、
「I'm coming ウーウーウー...」
ときた、口惜しいから、放屁してやった、そんなせいかも。
安宿の悲哀...

アルビは諦めた。
FIGEACから西へ二つの美しい渓谷、ロット渓谷とセレ渓谷がY字型に横たわり、
やがて一つになってCAHORSに流れ込む。
この二つの壮大な石灰石の断崖の峡谷に佇む中世の村や城、



教会、荒廃した修道院、鐘楼、









煉瓦造りの古い民家、そんな風景の一つ一つを眺めながら、
時には車を止めて写真に収めてのドライブはドライブ冥利と言うものだ。





途中、谷から尾根へ出て、尾根伝いに山道を走る、もう車どころか人影も無い。
先史時代のマンモス、パイソン、馬、人間などの洞窟画が見られるというベルヴュー洞窟、
夢に見た洞窟画、胸が踊る。
やっと辿り着くと、無人だ。
入れ口は鉄格子に鍵、鉄格子をこじ開けて入った跡があったので、電池を持ち出し、
「よし、探検だ」
とばかりに、鉄格子を潜り抜ける。
10Mも行くとまた鉄格子、今度はビクともしない。
「まあ、ラスコーが有るのだから..」
とは思うものの諦めて、がっくりと谷まで下りる。

谷を下りきった真向かいのレストランで昼食。
トリュフのオムレツ、フォアグラ、を頼んだつもりだが、
持ってきたのはクルミの乗った周囲がパンの様なもので取り巻いてる奴、
給仕が何か説明してくれたが全然判らない。
惨めに打ちしがれた私の顔を見るに見兼ねたのだろう、
隣に居た夫婦連れの男の方が、
「オムレツは後から来るから心配しないで」
と英語で教えてくれた。

余りに美味しくて、胃が人並みの三分の一も無いことを忘れてしまう。
何時もなら半分も食べられない量なのに全部平らげてしまう。
後が大変だ。
世界の珍味と言われる二つまでが、この辺りに産出されるトリュフとフォアグラ、
土地柄のせいなのか、歴史的な背景でもあるのだろうか?

隣の夫婦は大きな肉の塊をペロッと食べてしまった。
ワインの大瓶も底をついている。
天井に日本の唐傘が逆になってぶら下がっている、電灯の傘にしていのだ。

オムレツを食べながら案内書を見ていて、とんだ勘違いに気が付いた。
洞窟画を公開しているのは、ペク.メルル洞窟の方だった、
一寸引き返さねばならないが、直ぐ近くだ。


有史以前の絵を生で見る事の出来る感動をどう伝えたら良いだろうか。
マンモスと馬が絡み合った鮮鋭な黒線画、今にも躍り掛かって来るようだ。



黒い斑点で埋められた馬が二匹、尻が重なって左右を向いている、所々に紅い斑点も、
その背後に人間の手が浮き上がる。



壁面に置いた手の上から草の茎や空洞の有る動物の骨の霧吹きのようなもので顔料を吹き付けているのだ。









もう一つ奇跡的に残っているのが、人間の足跡、



2万5千年前、人間が確かに此所に手を置いた、歩いた、その生々しい記録なのだ。

この辺りの気候は変わり易い。
いきなり大粒の雨が落ちてきたかと思うと、からりと晴れあがったり、
これが一日に何回か繰り返される。


 

つづく

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