残念バンコク記1
20050909

5時起床。
駅のベンチで納豆巻きを咥えて居ると肩を叩かれる。
Yさんだ。
私との共通点は胃袋が殆ど無いこと。
熱血漢でその名の轟いていたYさん、
未だに眼光は鋭い。
そんなYさんと品川まで昔話が絶えない。

成田、チェックインを済ますと口寂しくて生ビール、
近頃、
γーGTP値を気にしていて昼間から飲むのは珍しい。

バンコクまで6時間余り、
ワインを飲みながら宮本輝を開く。
このところ宮本輝に凝ってる。
今まで読んだ輝さんの小説は、

胸の香り
星々の悲しみ
月光の東
花の降る午後
幻の光
約束の冬
オレンジの壷
錦繍
此処に地終わる
流転の海
地の星
血脈の火
天の夜曲
春の夢
睡蓮の長いまどろみ
蛍川
泥の川
彗星物語
道頓堀川

こうして並べてみて、本の名前は殆ど覚えていない。
このリストも二度買いしないようにと作ったものだ。
フイと宮本輝が書いた小説名を挙げろ、と言われても、
多分、出て来るのは三つかそこらだろう。
初期の頃の蛍川、泥の川、道頓堀川、覚え易かった。
昔なら例えば漱石、
我輩は猫・・、坊ちゃん、草枕、虞美人草、三四郎、それから、門、こころ、道草、明暗・・・
等々、まず漱石の同じ本を買い込む危険性は無かったが最近は危ない。
記憶力の衰え、小説の氾濫もあるだろうが、覚えにくい名前が多い。
概して、奇に衒い、それでいてパッと連想するモノが弱くなっているような気がする。

隣の席の若い奥さん、殆ど食べるか寝てるかだ、
人懐っこい顔をしているが、それほど話好きではないようだ。
当方は例の如し、
この様な時には余程のことが無い限りこちらからは声を掛けない。
バンコクに着く直前から、何かの切っ掛けで猛烈に会話が始まった。
ご主人とバンコクで落ち合って一週間の休暇だそうだ。
私の旅三昧の話に羨ましそうに恨めしそうに向けた瞳は黒く輝いている。
どういうわけか子供も出来ない、こうなったら二人で二人の人生を楽しむんだ、そうだ。
如何にも待ちに待った休暇を楽しむんだ、そんな感じだ。
若さと好奇心、希望、夢、何よりも勢いがある。

話し込んでいる内にバンコク空港、それでも4,50分遅れらしい。
少しでも空いてるミグレーションを求め大分奥の方まで歩いて行く。
今までにない混み様だ。
結構広いミグレーションの部屋の隅まで何本もの行列が並んでいる。
もっと空いてるところは無いかと衝立のようなものを潜る。
と思った瞬間、まともに額をぶつけた。
パーンと太鼓の様な音がして尻餅をつく。
二三人の人が寄ってくる。
「are you ok?」
私の倍ほどの胴回りの黒人の小母さん達だ。
スクッと立ち上がって、
「ノーノー、サンキュウ」
少しでも短い列を一緒に探していた隣席の若奥さんも、
「大丈夫ですか?」
と私に声を掛けた。
まだ、ワインが残っているようだ。

さて、並んだものの仲々進まない。
バンコクも旅行者が多くなったから仕方ないのか、
それにしても随分と長い時間が掛かる。
何か特別警戒でもあるのだろうか。

前に並んでいた若い女性がカウンターから引き返してきて私に尋ねる。
「会社員って何て言うんですか?」
一瞬、何の事か判らない。
「occupationは?って」
成る程、職業を聞かれたんだ。
しかし、会社員ねぇ? OLじゃおかしいし。
なんて考えてる内に彼女たちは通り過ぎた。

ミグレーションのカウンターの前に張り紙がある。
「・・new system・・ test・・・・・」
実際に入国処理をして判った。
今日から新しいシステムの導入、時間が掛かる訳だ。
何かロボットの様な物が目の前にある。
先に入国処理を済ませ若奥さんの審査風景を振り返ると、
入国管理人の手元のパソコンに若奥さんが大きく映し出されている。
タイに入国すると顔写真が写されるハメになったのだ。

「嫌だねぇ、写真を撮られちゃた」
そんな話をしながら荷物の受け取りに向かう。
我々は新しい入国管理システムテストの列に並んでしまったのだ。
大分、時間を費やした。
案の定、受け取るべき所に荷物が出て来ない。
バンコク国際空港の荷物の受け取り場所も広い広い。
右で尋ねて左、左で尋ねて右、
受取人不明の如くポツンと置かれている荷物を見つけ出すまで、
何回行ったり来たりしただろうか。


到着ロビーまで出るのが二時間は遅れている。
若奥さんのお迎えも、私の娘も待っていてくれた。
呼び出しをしたらしいが気が付かなかった。

つづく