慶州の巻1


「タクシーに乗ったら、このメモを運転手に渡して下さい」
と呉さんから手渡されたメモには
[○○ホテルへ行って下さい]
と日本語とハングルで書いてある。
「じゃあ、ここで」
と降ろされた角で一行の乗ったバスを見送る。

ひっきりなしに車が通る通りの歩道、日差しが強い。
「そっちの方向へ少し行くと慶州駅です」
と示された方へトボトボ歩き出す。

立ち止まると、タクシーがスーっと側に止まった。
メモを渡すと頷いた。
途中で運転手が何か言って右を指差す。
広場の向こうに慶州駅の看板、駅を教えてくれたのだ。



直ぐに、「ここだ」と止まったのは8階建てくらいのビルの前。

ドアーを押して入ると、目の前のシャッターが閉まっている。
「休みかな?」
脇のエレベーターから降りてきた男にメモを見せると、
何か言ってるが全く判らない。
「ここがそのホテルだ」
と言ってる様だが、カウンターらしきものは見当たらない。
「付いて来い」
と言うように手招きして先に立った男は、エレベーターに向かう。
6階のボタンを押しながら、
「ここで、降りろ」
というゼスチャー、彼はそのまま上に上がって行った。

狭いロビーを見渡すと奥の方に、文字通りの窓口に若い女、
何処の国にでもある安宿のイメージを描いていたので、面食らう。
6階に有るとは思いもよらなかった、先入観は恐ろしい。
表通りを探していたら見付けるのに骨折っただろう。
メモが役に立った。

日本語は全く通じない。
用意してきた別のメモを渡す。
「部屋を見せてください。
 一晩幾らですか。
 二晩で幾らですか」
さっき、呉さんにハングルで書いて戴いたメモだ。
窓の内側で、

「1 night 30000, 2 night same」

と素早く書いて外に出て来た女の後に付く。
廊下の左右に10部屋くらいは有りそうだ。
一番手前の部屋の鍵を開けて中を見せてくれる。





タブ付き風呂、冷蔵庫、クーラー、TV、ベットのシーツも真っ白い。
慶州駅も真近かだ。
「OK」
これで第一の関門突破。
もっとも、受付の女性との2,3分のやり取りで、大体、腹は決まっている。
永年の感と言おうか、
「ここはあくどい処でも、怪しい処でもない」
が直感で判断出来る。
話振り、仕草、顔付き、あたりの雰囲気で、大体、判断出来る。
もっとも、今までに、あくどい処、怪しい処に出会った事は無いが...


言葉も判らない知らない土地でも、第一夜の宿が決まれば後はなんとかなる。
呉さん金さんの御配慮が身に沁みる。

ベッドにひっくり返って、慶州の地図を広げ、
慶州の東西南北の大凡を頭に入れる。

(続く)

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