慶州の巻2 良洞村
大凡の慶州の地図と見所、を頭に入れて街に出る。
昨日見残した石窟庵と、ななさんに御紹介戴いた良洞民族村、
この二つが必須、後は時間次第だ。
直ぐ右手にコンビニを確認し真直ぐ慶州駅のインフォーメーションへ。
恐る恐る扉を開くと笑顔が飛び込んでくる。
日本語が堪能な女性だ。
詳細な地図、行き方、バスの番号、時間等々、手を取って教えてくれる。
帰りがけに市場を突っ切る。
豚の頭、蛸、サザエ..名前を知らない大小の魚達が雁首を並べている。
カメラの電池を充電したいのだが、電圧が心配、フロントに聞くと、
案の定、240Vだ。
「変圧器か充電器が買いたい」
がやっと通じる。
「一寸、待て」
の仕草、
「こっちへ来てみて」
と案内された部屋に大きな変圧器、直ぐ充電器をセットしてくれる。
やっと来たバス、例によって行き先のメモを示すと運転手が首を縦に振った。
今度は料金の支払い方が判らない。
大きめの札を出すと、
「もう一枚」
と人差し指を立てる。
料金箱に入れるとお釣がジャラジャラと出て来た。
高層アパートの並木を通り、10分もすると両側に田園風景。
大きな川沿いに走るが、川に水が無い。
水不足と聞いていたが、想像以上だ。
道はすこぶる良好、いろんな表示は全てハングルで全く判らない。
良い気分でドライブ気分に浸っていると、
「ここだ」
と降ろされる。
大きな橋のふもと、辺りには川と田圃と道しかない。
当然、良洞村行きのバスと思っていたが、甘かった様だ。
途方に暮れてもう一度じっくりと周囲を見渡すと、
「良洞村」
の矢印がある、距離とか時間とかは書いてない。
たまに自家用車が通り抜ける田舎道を歩き出す。
雨がポツリポツリとやってきたがたいしたことは無い。
30分もすると村落が現われた。
村の入れ口に小学校?、二宮尊徳如き銅像が校庭を見据えている。
中国等で経験した「○○民族村」とは全く様相が異なる。
整備された観光施設と思っていたが、「村」そのものだ。
道が二股に分かれた処に一軒の万屋、缶コーヒーを飲みながら
店のおばさんと話す、少し日本語が判る。
帰りは何とか成りそうだ。
小さな谷間に見事な集落が散りばめている。
ななさんから
「素晴らしいところ」
とだけは聞いているが、日本の案内書には記述が無く、
全く予備知識が無い。何処に何が有るのか、どう歩いたら良いのか、
見当もつかない。
少し行くと案内所、ほっと肩を撫で下ろして中に入ると無人、
それでも転がっているパンフレットを拾い上げると、
結構詳細な村の案内書だ、日本語版もある。
谷と山が「勿」字の形を成している。
その谷谷に、韓国儒教文化が根付く150戸360世帯が、今でも、
ひっそりと、その伝統を守りつつ生活している。
この小さな村落から、歴代に渡り、数々の中央政界の高官、学者が輩出している。
そして、
国宝、重要文化財に指定された文献や韓国伝統の格調高い家屋などの
文化財がゴロゴロしているのだ。
古家屋にくっついて散在する藁葺きの家屋が辺りの雰囲気を盛上げるが、
これらは下人や召使だった人々の住いの名残だ。
土塀から様々な花が道にはみ出す。
(クリックすると拡大します)
おお、四十雀の声もする。
大きな黒白模様の鳥はかけすだろう。
茶店らしいところを通り過ぎて村の中央の道を真直ぐに登る。
左右に立派な民家が立ち並んで居る。
30分も歩くと民家が無くなった。
思ったよりも地図の縮尺が大きい様だ。
道端の畑に坐り込んでいる老女に地図を示して現在位置を確かめる。
老女は、
「判らない」
と言う風に首を横に振った。
さっきの茶店まで引き返す。
一服して態勢を整えようと茶店に入る。
「ビール」
「アルコール」
と言っても通じない。
手招きしたおばさんは冷蔵庫を開けて、
「これか?」
と取り出したのは、ポリ瓶に入った液体、
兎も角、喉が乾いた。
トクトクとコップに注いで呉れたのは地酒らしい。
仲々いける。
おばさんがキムチと漬物を持って来て、
「上がれ」
と傍らの座敷の戸を開ける。
「いや、こっちの方が..」
と縁側に坐りこんで地図を睨む。
結構強い地酒のようだ。
良い気持ちになって立ち上がる。
「幾ら?」
と代金を支払おうとすると、おばさんは、
「要らない」
と手を横に振る。
どうも普通の民家に紛れ込んだらしい。
どうしても受け取らない。
傍らの男の子に小銭を握らせて退散だ。
満面に笑みが込み上げて来る、良い気分だ。
500年の伝統を持つ家屋の一軒一軒が、
雛壇に飾られた様に左右の山間に見え隠れする。
谷間を登って一軒、降りてまた登って一軒...
(クリックすると拡大します)
どの家も、決して華美では無いが質実剛健、しっかりとした柱に支えられている。
素朴かつ堅牢、それでいて隙が無く洗練されていて、お洒落でさえもある。
要所要所に、○○書堂、○○亭と名の付く棟、これは両班の師弟のの教育の場だ。
とても見切れない。
どの家も、生活が営まれている。
そして、どの家も入場料無しだ。
客は極めて疎ら、そんな中の一人の青年と、
彼方此方で出っくわすうちに、何となく一緒に歩き出した。
彼はカタコトの日本語を話す。
ソウルから来た彼はここの伝統的な建築様式に興味が有るらしい。
建築を学んだが、建築業界が不況で、
ソウルの帝国料理店に就職しているそうだ。
全くのカタコトで一つの言葉が仲々出て来ない。
と、筆談に入る。
趣味の話になる、旅行、書道、インターネット...
共通点が多い。
さっきのバス停まで連れだって歩く。
これで何とか慶州まで帰れそうだ。
つづく
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