アンコールワット記5
パプオーン・王宮・象のテラス
バイオンから少し走ると弟君はバイクを止めた。
「此処は○○だ、其処が入れ口、俺は右の方を出た所で待っている」
と手振りで言う。
大失敗に気が付いたのは宿に戻ってからだ。
此処が何処だか知らないで、
パプオーン、王宮、像のテラス辺りを巡ってしまったのだ。
従って、以下の場所の説明は後付だ。
失敗におまけが付いた。
入れ口を入ると直ぐ17、8歳くらいの少年が横に並ぶ。
「こんにちは、僕は日本語を勉強している学生です」
「何処から来たの?」
「バンコクから船で来たの?飛行機?バス?」
鬱陶しいが離れない。
写真で見るとこれが空中参堂だ。
何とか追い払おうと考え込んで通り過ぎようとした時、
少年が
「日本人は此処で写真を撮るよ」
少年のお陰でこの写真が撮れた。
空中参堂の下の部分だ。
改築中で大きなテントが被せてある。
「ポルポトがみんな壊してしまったんだ」
と顔を顰め残骸を指差す。
「こっちに面白い木があるよ」
確かに変わった木だ。
「この木は像の形をしているでしょう」
言われてみばそんな格好をしている。
まあ、チップを2$くらいやればいいだろう。
「この先に寝釈迦があるよ」
と先を歩き出した。
人影は全く無い。
流石に薄気味悪くなる。
「友達が出口で待ってる、それに時間が無い」
「ああ、そう、出口はこっちよ」
と更にこんもりした林の中に導く。
何十年振りかで秘伝の空手のご披露かな、
と半分覚悟を決める。
と、少年が振り返る。
「スイマセン、僕はこれから日本語学校へ行かなくてなりません、
その先に○○があって、その向こうが出口です」
ポケットから2$出して渡そうとすると、
「僕はバーツか円が欲しいのですが」
「バーツも円のないよ」
「僕、学校へ行くのにお金が要るのです、
それじゃぁ、5$下さい」
ここでガタガタしても始まらない。
ポケットを探るともう2$出てきた。
4$渡すと少年はそそくさと森の中を駆け戻っていった。
クワバラ、クワバラ、やはり、最初が肝心だ。
さて、少年の教えてくれた方向へ進むと
瓦礫の山へ出たがどっちがどっちか判らない。
東西南北が判らなくなってしまったのだ。
もう、疲労も限界に来ている。
元へ戻ろうかどうか迷ったが、
ままよと瓦礫の門を潜ると広場へ出た。
此処が象のテラスと知ったのは後のことだ。
広い広場を見渡しても弟君の姿は見えない。
もしかした、弟君の言った出口と違うのかも判らない。
芝生の上に腰を下ろす。
広場の反対側に小ぶりの遺跡が並んでいる。
腰を下ろした広場が王宮広場、並んでいる塔が「綱渡りの塔」、
プラサット・スウル・プラットと知ったのも後の事だ。
王宮前に集まった観客に綱渡りを見せたと言う。
暫く、キョロキョロしていたが弟君は現れそうも無い。
日暮れも迫ってきた。
バイタクを拾おうとヨロヨロ立ち上がってウロウロしていると、
弟君が白い歯を出して近寄ってきた。
大分探したのではないかと思う。
翌日、たまたまこの広場の前を通り過ぎようとした時、
以下の写真を撮った
まさしく象のテラスだ。
知らないとは恐ろしい。
急ぎ足でライ王のテラスまで覗いてみる。
王があのテラスの上で、
この道を凱旋して帰った兵士達、象の軍団を迎えたのだろう。
歓声がこだましてくる。
続く
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