ソウルの巻1
一時間半余りでソウル、新幹線で東京駅に着いたイメージだ。
ヨーロッパや中国では大きな駅に着くと必ず客引きが寄ってくるが、
そんな気配も無い。
もっとも、彼らも人を見るのだろう。
ソウルの何処に何が有るのか、電話の掛け方、地下鉄の乗り方、
丸っきり、右も左も判らない。 荷物も大きい。
まず、インフォーメーションをめざす。
ここも日本語を話す女性、またまた美人だ。
ともかく宿の確保、
「安くて、清潔で、安全で、便利な所」
の要望に、暫く頬に指を当てていた彼女、
「此処が良いでしょう」
と名刺と地図を呉れた。
「地下鉄一号線の一つ目の駅です」
後ろに客が並んでいる。
やっと、地下鉄を探し当てたが、自動販売機の切符の買い方が判らない。
人の居る窓口が目に付いた、お札を出すと、何か言っている。
駅の名前が咄嗟に出てこない、モタモタしていると、
ジャラジャラと釣銭を呉れた。
一号線のホーム、今度は右か左か、確か、一つ目と言われたが、
それらしい駅名は無い。
ホームに座り込んで地図を引っ張り出す。
やっと見つけた駅は二つ目だ。
東京生まれの母親が久しぶりに東京へ出て、
「右も左も判らなかったヨ」
と言っていたのを思い出す。
地下鉄を出ると、有楽町の駅の付近の感じだ。
地図には方角が示してない、東西南北が判らない。
それでも長年の感で、細い路地の奥に宿を見つけ出す。
第一印象で若干不安を感じる、がそんなことも言ってはいられない。
無愛想なおばさん、笑うと人が良さそうだ。
一応、必要なものは全部そろっている。
今までの宿では一番劣るが、繁華街のど真ん中、こんなものだろう。
Kさんから、
「ソウルに着いたら直ぐ電話しなさい」
と言われているが、変に気を遣わせてはと躊躇する。
連絡しないのも失礼と、結局、帳場から電話してみる。
「今からそこへ行くから」
懐かしい声が響く。
一時間余りしても現れない。
流石のKさんも、ゴチャゴチャしたこの辺りには不案内かも、
と表通りに出る。
五分もすると、とりわけ目立つ白髪が群集の中をより分けて来た。
感激の再会だ。
「この辺りは判りにくいでしょう」
「なんのなんの、この辺は昔鳴らしたところよ」
一休みしてから、近くの気の利いたカフェに入る。
カフェと思ったら、コーヒー店、アルコールは無い。
私の酒好きの知っているKさん、申し訳なさそうだ。
Kさんの博学振りには今更ながら驚かされる。
近世の、韓国、日本、それを取り巻く各国の情勢を、
時代を追い、噛み砕くように、お話下さる。
日本についても私より詳しい。
「韓国は何年も悲惨な目に遭って来ているが、文化は残っている」
Kさんの目の底に韓国魂を感じ取る。
明日の再会を期して地下鉄の入れ口までお供する。
後姿が思ったより逞しい。
さて、あと三泊のソウル、特にあては無い。
強いて言えば、博物館、そして韓国の古い伝統芸術に触れてみたい。
あとは、何か骨董品の小物を漁りたい。
地図を広げると、皆、歩いて行ける距離に有りそうだ。
やっと覚えた此処は、地下鉄鐘閣駅の真近かだ。
近くに、韓国観光公社があり、そこにインフォーメーションがある。
明日は、まず、インフォーメーションへ直行と決め、ビールをあおる。
つづく
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