ニサラとジム.トンプソンへ

もうそろそろヴィサラの乗った飛行機が昆明からバンコクへ着く頃だと思っていると、
誰かがノック、ドアを開けると、そのニサラがニコリと立っている。
「明日午後5時に迎えに来ます」
昨日、
「タイ語は全く判らないし、電話を掛けれるかどうか不安だ」
とメールしたので、わざわざホテルまで来てくれたのだ。

ニサラは25歳、イギリスに2年留学してから、
中国に1年留学、既にタイ航空へ就職が決まっている。
この7月からスチュアデスの仕事が始まるのだ。
タイ航空の機内で見る煌びやかなスチュアデスのイメージとはほど遠いい。
ジーパンに白いブラウス、靴もペチャンコだ。
いずれイメージチェンジするのだろう。


翌日、少し遅れてニサラがやってきた。
彼女の運転するヴォルボで、先ず、ジム.トンプソンへ向かう。
渋滞を避け細い抜け道を走る.
あと100mか200mの所で車が動かなくなった、酷い渋滞だ。
連なった車の脇を、バイクが潜り抜けて行く。
「私、あの車が欲しいなぁ」
彼女が指差した車は日本でも人気のホンダCRV、
タイの車のシェアーは、トヨタ、ホンダ、三菱だそうだ。
バイクはホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキとか。 欧米の車は少ないようだ。



気の利いたインテリアのシックな店、ジム・トンプソン。
ジム.トンプソンと言うアメリカ人が、第二次大戦後にタイシルクに目を付け、莫大な財をなした。
彼はある時、マレーシヤの山中で行方不明になり未だに生死も判らない、伝説上の人物だ。
元々は建築家、CIAにも属し、その事業成功までの波乱万丈の人生が伝説化しているが、
その謎に包まれた失踪、金銭目当ての誘拐説、自殺説、地民に殺された説、
虎や豹の餌食になった説、遭難説等々が第2の伝説だ。
多額の賞金付きにもかかわらず未だ以って一切の手掛かりが無い。
生きていれば90歳は越した筈だ。
彼の始めた事業は順調に推移し、
タイで最も著名なシルク店として其の名を世界に轟かせている。

血走った目で漁るように物色する沢山の日本人に交じって買物、
4階まである結構大きな店だから、欲しい物を探すだけでも大変だ。
良く来つけているらしいニサラの案内が有るので、
ゆったりと、効率よく買物ができる。
「○○が欲しい」
と言うと、其処へ直行、
「これにしたい」
と言うと、
「其れは絹ではない」
我々素人が見ると全く見分けが付かない。
残念ながら割引は無い。

イギリス風のコーヒーショップも仲々の雰囲気だ、話題がイギリスに飛ぶ。
留学中に彼女もテイトギャラリーへ良く足を運んだらしい。
あそこでは、ピカソのまだ若かった頃の女性像に圧倒されたものだ。


大きなホテルの屋上に有る広東料理店、広いガラス窓を通してバンコクが一望出来る。
此所の名物はシュウマイ、美味しい。
いろんな種類を並べられたが、それぞれ一つずつも食べられない。
目は食べたいのに悲しい事だ。

カオサンに戻って生ビール、大部分が白人の客、
「私も若い時、良く此所へ来ました。 其処のディスコ..」
と指差すと、そこは空き地になっている。
彼女も久し振りのカオサンらしい、此所も徐々に変わってきているのだ。


一日置いて。
ニサラのボーイフレンドと日本食レストランで落ち合う。
彼の愛称はゴルフ、ゴルフ気狂いだ。
真紅のTシャツ、銀色に染めた髪、ネックレス、腕輪、指輪が体中に光り輝く。
快活明朗な大男、時々鋭い目付きをするが、笑うと可愛い。
モデルのコーデネーターのような仕事をしているらしい。

伊勢丹なども入っている巨大なショッピングセンターの6階、「禅」という名の店。
やっと席が空くくらいの混雑、日本人もチラホラ見えるが殆ど現地の人のようだ。
中国人と違って、と言っても彼等も華僑だが、彼等は日本食、それも刺身が大好物だ。





大きな盛り合わせをたちまち平らげる。
彼の両親は中国人だが彼は中国語が全く話せない。
ニサラも同じだった、だから、彼女は中国へ留学した。

「サキソホン」、ジャズライブの店、久し振りの生だが、アドリブが見事だ。



 

電子ピアノ、アルト、ギター、ベース、クラリネット、皆相当な腕前朶。
後で聞いたが「サキソホン」はバンコクでも名の知れた店だそうだ。
「マイファニーヴァレンタイン」をリクエスト、躊躇無く、譜面無しで演奏してくれた。
ドイツ風の陶器の大ジョッキのビールも雰囲気を盛り上げる。
旅に出て、カオサンに来て、ビールを飲みながらジャズを聴く、
これ以上無い開放感を味合う、こんなのが旅の醍醐味だ。

カオサンまで送ってくれて、ゴルフが行き付けの店でビール。
まだ20代半ばのオーナーは彼の後輩とか、頻りにコボス。
カオサンでも目立つ大きなカフェを投資してしまったが仲々大変らしい。
彼は場所の不利を嘆くが、
カオサン通りを東へ直角にぶつかった正面に位置する店からカオサンが一番奥まで見渡せる。



場所が本質的な問題では無いようだ。
カオサンにしては、一寸、明る過ぎ?、奇麗すぎ? るのかな?

つづく