ハノイ記4
ハロン湾2
船が動き出してる。
デッキに上がって長椅子に寝転ぶ。
この気分だけで今回のハノイ旅は満足だ。
昨夜灯の灯った水上の家並みを抜けると小さな港が近づく。
此処がバットバ島らしい。
沢山並んだ船の舳に中に強引に割り込む、これが普通なのだろう。
今日の宿は港の目の前、中も悪くない。
ガイドのおねえちゃんは、我々をセットすると何処かへ消えた。
我々と言うのは、ドイツ娘が同じホテルに投宿したからだ。
案の定、彼女がこれからの相棒らしい。
相棒、といっても言葉が殆ど通じない。
「今日の予定は?」
「トレッキングみたいよ」
ガイドが戻ってきた。
ホテルの前に暴走族もどきの若者が何人かバイク音をまくし立てている。
ガイドがそのバイクに乗れと言う。
一山越えると島の中心街、ガイドが何軒か立ち寄って交渉しているらしい。
どうも、交渉が巧くいかないらしい。
結局、またバイクで宿の側の港に戻る。
計画変更らしい。
「monky island へ行きます」
ドイツ娘は「wonderful」とかいって満面に笑みを浮かべている。
トレッキングの人数が集まらなかったらしい。
ハロン湾を眺めただけであとはおまけ、別に拘らない。
10人乗り位のボートに乗り込む。
船に男が二人、ガイドと我々二人、気楽な一日になりそうだ。
突然のスコールの中、monky island に着く。
ガイドが渡してくれたベトナム帽子を被って島に上がる。
何がしかの観光施設でも有るのだろうと思っていたが、何も無い。
猿が出て来た。
ガイド君曰く、
「此処には数匹の野生猿が棲んでいます」
雨が止んだ。
砂浜が白い。
昼飯だろう、ガイドから何がしかの食料を手渡された。
ドイツ娘がそれを何かを食べ始めると猿が寄って来た。
ドイツ娘が青くなってキャーキャー逃げ回っている。
彼女の昼飯は猿の餌になったみたいだ。
砂浜で海を見る。
水は青くこれ以上なく澄んでいる。
我々のボートが浮かんでいる以外人影、船影も無い。
水際を歩く。
砂が軋む。
小さな穴をほじると小さな動物が出てきて凄まじい速さで海に逃げ入る。
蟹では無い様だ。
思っても見ない極楽。
ドブン、音がしてドイツ娘が泳ぎ出した。
水着が無いのがいかにも残念。
やがて、ドイツ娘が佇んでいる私を呼び寄せて指差す。
「これ! これ!」
カニャックだ、TV等で見たことは有るが漕いだ事は無い。
躊躇している私を強引に誘う。
初めてのカニャック、快適だ。
別の島、無人島らしい、に乗り上げる。
彼女はクロールを切り出した。
少し離れたところでパンツ姿で海に入る。
心地よい。
水中眼鏡を付けて小魚と戯れる。
散々泳いで昼寝して元の島へ帰ると、
ガイドと船の男が砂浜で何かを採っている。
貝だ。
一緒に砂を掻きあげると面白いように貝が見つかる。
シジメくらいの大きさで感じは蛤、今夜のおかずだそうだ。
ボートで話し込む。
ドイツ娘は27歳、バイオケミストだそうだ。
残念ながら好みの女性ではない。
ガイドは25歳、見た感じは高校生。
これ程ゆったりした一日の経験は無い。
宿に戻って島の中心街で夕食。
例によって、参加者がまた異なる。
日本のツアー団のように一度編成したら最後まで同じメンバーと言うのではない。
今回、ハノイを出発した時のメンバーは一人も居ない。
一日目の昼間から、たまたま、ドイツ娘と行程が一緒になったが、
あとは、てんでんバラバラ、行きのバス、一泊目の船、二日目の行程、宿、夕食、
その都度顔振れが変わる。
それでなくても人見知りする私には仲々馴染めない。
メニューの見方も判らない。
たまたま隣に座ったドイツ娘が教えてくれた。
一ページからメインデッシュを選び、二ページから何々を選ぶ、
そんな方式のささやかな夕食だ。
迷わず泳いでいる海老を選ぶ。
もがいている蟹を食べてみたかったが食い方が面倒だ。
珍しく、出された海老を全部平らげた。
隣のドイツ娘は小さな盥程のピザをあっという間に平らげた。
今日の島ツアーの素晴らしさを大袈裟に話すドイツ娘に、
何人かが真剣に顔を寄せて聞き耳を立てる。
真に彼女は感動したらしい。
つづく
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