ハノイ記 9
ハンコを受け取る。
まあまあの出来だ、何かの書に使えそうだ。
雅号の龍と泰。
ロビーでボヤッとしていると隣の男が話し掛けてきた。
「ベトナム料理が合わないので西洋料理ばかり食べていました。
お釣りを呉れなくて何回も揉めました」
話は愚痴ばかりだ。
不思議と私はお釣りで揉めた事はない。
もっとも、余程の事が無い限り確かめた事は無い。
さっきの男が話していたリットルハノイと言う西洋レストランへ行ってみた。
アメリカの小都会の街角のような雰囲気、客は白人ばかり。
生ビールが美味しい。
サンドイッチも西洋風だ。
7時半頃、マネージャー君から電話、
念願のベトナム刺身が喰えそうだ。
バイクに跨る。
客は少ない。
「ここは評判がいいので食事時は満員です」
と彼が言う。
店員が2、30cm位の魚を洗面器のような器に入れて持ってきた。
「これでいいか」
これを刺身にするのだ。
やがてテーブルに出された刺身、白身だ。
いろんな種類の野菜、果物が付いている。
パイナップル、バナナも有る。
刺身をレモン汁に浸して、
大きな葉っぱの野菜でいろんな野菜、果物と一緒に包む。
これを山葵たっぷりの醤油を付けて食べる。
山葵は日本製のチューブ山葵だ。
日本の鱒料理の味がしないでもない。
飛びっきり美味しい物でもないが、久し振りの刺身だ。
刺身を山葵醤油だけで食べると、彼は、
「日本人は刺身を山葵醤油だけで食べるのか」
と怪訝そうだ。
兎も角、刺身にありつけた。
通りに面した部屋で騒音が心配されたが、
不思議な事に、
バイク音、甲高い女の叫び声、子供達の戯れ、警笛、車の軋み音、口笛、
スピーカーから流れる音楽、たまに窓を打つスコール.........
そんな生活音が聞こえて来ると妙に安心する。
翌朝、最後にみんなの写真を撮ってホテルを出る。
驚いた事にベトナム航空の席から操縦席が見える。
やっと、アオザイ姿が写真に収まった。
完
ハノイ記1、ハノイ記2、ハノイ記3、ハノイ記4、ハノイ記5、ハノイ記6、ハノイ記7、ハノイ記8、ハノイ記9